2023年5月26日(金)出口大地指揮/日本センチュリー交響楽団第273回定期演奏会 ピアノ務川慧悟

19時開演 ザ・シンフォニーホール

今期センチュリー定期の最大の楽しみ、務川さんのピアノコンチェルトが聴けた素晴らしい演奏会でした。

昨年センチュリー豊中シリーズで聴いた務川さんのラフマニノフ3番がちょっとないくらいに感動的で、また務川さんを聴きたい!と思っていたところ、早くもその願いが叶いました。

そのときのブログを見返すと「古典派ではなく、超絶技巧と音量が存分に堪能できるロマン派以降の作品で」次も聴きたい、と書いていました——そこへプロコフィエフの2番。なんと「ど真ん中」に来てくれました。

豊中での衝撃以来、アルバムなどで務川さんの演奏をかなり聴きました。生で聴いた時に和音の切れの良さがとにかく快感だったのですが、和音だけでなく単音の透明感も素晴らしくて、電車で聴きながら涙が出そうになったこともあります。

ある音楽ジャーナリストの方は「10本の指すべてが均等な力で打鍵できる稀有な能力の持ち主」と評されていて、なるほど!と。(「慧悟は人間じゃない」とも 笑)
生理的に心地よいとまで感じるあの音色の要因は、その揃った響きがもたらすものであったのかと納得しました。

この日の演奏ですが——左右の手が跳躍しまくる轟音、両手がぴったり揃ったスケルツォの疾走、グリッサンドを交えた速弾きといった超絶技巧、闇に漂う透明感や狂気を孕んだ抒情性の表現、すべて出し尽くされた感の演奏で圧倒されました。ピアノとはここまで鳴らすことができ、表現できる楽器なのか、とも。時おりゾクっとするような表情をされていて、あの印象的な切れ長の目の光には、常人ならざるものを感じてしまいます。

定期マイシート2階最前列中央の座席は、ピアニストの手元も表情も見れ、オーケストラも俯瞰できる最良の席だと思っているのですが、しかしこの日に限っては、務川さんのピアノのそばで聴きたい!と思いました。鳴らした音、振動が直に伝わってくるような至近距離で(できればピアノの下にもぐりたい)。

実はそう思ってしまった理由はもうひとつあって、オケとピアノ両方がフォルテシモの場合、しばしばピアノがかき消されて聴こえない瞬間があり、もどかしい思いがしたのです。これは1月の反田さんのブラームス1番の時も同様だったのですが、残響が豊かなこのホールは、オケの音が被ってしまいがちであるのかと思いました。豊中文芸ホールのように、少々デッドな方が音が分離して聴こえるのかもしれません。ホールの音響は難しい・・。

 

さてところで、この日のトピックのふたつ目は、若きマエストロ、出口大地さん。
出口さんもかつてびわ湖ホールのオペラ指揮者セミナーを受講されていたのですが、左手で指揮棒を持っていたのが印象的で、お名前とともに憶えていました(プチ育てた感あり 笑)。

セミナーではあくまで受講生なので(言われっ放し)、その実力のほどもキャラクターもよくわからず、今回初めて実演に接したわけですが、青年らしい溌溂とした明るさがオケの音にも反映されていて、素晴らしい演奏でした。

左手の指揮棒は見慣れると違和感がなく、指揮棒を振ることだけが指揮ではない、という当たり前のことを再認識。それに出口さんは芝居気があり、「これはこういう音楽です」というのが、こちらにも明確に伝わってくる。このキャラクターは指揮者として魅力的であるし、大きな武器であるとも思います。

ぜひまた他のプログラムでも聴いてみたいですし、プチ育ての親としては(笑)これから大きく羽ばたいていって欲しいと思います。

この日のプログラムは、1曲目がイベールの「ディヴェルティメント」。結婚式でのドタバタ喜劇の劇伴音楽として書かれたこの作品はとても楽しく(メンデルスゾーン「結婚行進曲」のパロディも挿入されています)、ディヴェルティメントの和訳「嬉遊曲」そのもの。出口さんのキャラクターも映えて「掴み成功」。

ピアノコンチェルトを挟んで、休憩後(女子トイレは例によって超長蛇の列)はドヴォルザークの交響曲第6番。演奏される機会は少ないものの、交響曲の形式をきっちりと備えていて聴き応えのある優れた作品でした。1楽章はブラームス2番にそっくり。3楽章のチェコの民族舞曲「フリアント」を基にしたスケルツォは無窮動的でブルックナーのスケルツォを連想してしまいました。壮大なスケールを感じる4楽章ではオーケストラがよく響き——出口さんの鳴らすオーケストラの音色はキラキラと輝きがあってとても美しい——非常に満足感がありました。

今回のプログラムは曲目に一貫性がないので、コンセプトは何なのだろう?などと聴く前には思っていましたが、それぞれに堪能できたよいものでありました。

 

◇ソリスト・アンコール
ラヴェル:「鏡」第2曲「悲しい鳥たち」

◇その他
今回も「その他」が長くなります(笑)
なんと終演後に食事したお店に、務川さんと出口マエストロがおられてびっくり!
楽団長とヴィオラ首席の須田さんの4人で会食されていました。お食事中なので躊躇したのですが、プログラムとサインペンを持ってお席に。
サインを頂戴して、少しお話しさせていただき——昨年のラフマニノフ3番しばらく動けないほど感動しました!やら、務川さんのピアノの音が大好きです!やら、愛をぶちまけてしまいました。たぶんシャイな方なんですよね。すみませんでした・・。

出口マエストロは思った通りの明るい方で、務川さんとも仲良しのご様子。務川さんの書くサインを見て「かっこいいな」とかツッコミを入れつつ、その後書いていただいたサイン(もちろん左手で)は「あ、はみ出るゴメン」で、務川さんの方にはみ出してます(笑)

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