2020年2月29日(土)METライブビューイング「ヴォツェック」

12時開演 神戸国際松竹

アルバン・ベルクのオペラ「ヴォツェック」。
日本ではなかなか観ることができない演目なので、これは今シーズンのライブビューイングのラインナップのなかでも見逃せないプロダクションでした。

題名役のペーター・マッテイは、以前同じくMETの「エフゲニー・オネーギン」題名役で見たことがありますが、長塚京三を思わせる、困難な境遇が似合いそうな?お顔立ちで、この役にとても合っているように思いました。

演出が凝っていて、セットの一部となっているスクリーンに投影される、オペラのストーリーをなぞるようなアニメーション(少々不気味でグロテスク)は、これだけを取り出してもひとつの現代アート作品として成り立つクオリティ。オペラの演出家というのはあらゆる方面の才能を持ったマルチ・アーティストであるのだな、と再認識させられたのでした。

その人生の困窮をあらわしているのか、ヴォツェックは何故かいつもたくさんの椅子を両手に持って、しかも斜めになった足場板のようなスロープを上り下りしながら演唱。これはちょっと・・私の職業上(安全第一。)かなりハラハラさせられたのですが、同時に少々わかり易過ぎ? とも感じたのでした。

さすがにMETだけあって、キャストの歌唱はもちろん容姿も粒ぞろいで(妻の浮気相手の鼓手長は、自分の腹を叩いとけば?という感じでしたが)、中でも医師役バス・バリトンのクリスチャン・ヴァン・ホーンは背も高くめちゃ格好いい!他の演目でまた見てみたいと思いました。

ところで、このオペラを観に行きたいと思ったのは、ベルクの十二音音楽を体感したかったからというのが一番の理由でした。が、鑑賞後に感じたことは、現代の私たちはいわゆる劇判音楽などでこの種の音楽にずいぶん慣れているのだなぁ、ということ。「無調音楽」あるいは「十二音技法」などと聞くとひどく難解で考えることを要求される音楽のように思われますが、なんのことはない、映画やテレビドラマなどから流れてくる日常の音楽として無意識に馴染んでいたのですね。
それにしても複雑に重なったオーケストラの響きを聴いていると、ああ、これはぜひ生で聴きたい!と思ったのでした。

ちなみに、この時点であらゆるコンサートは中止に追い込まれていっていたのですが、映画館は通常営業。しかもいつものごとく、いや、演目の故かいつも以上に客席はガラガラで(各列に一組ずつ程度)、感染防止上はかなり安全な体制となっておりました。

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