2021年4月23日(金)尾高忠明指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団第547回定期演奏会

19時開演 フェスティバルホール

今季1回目の定期は4月25日発令の3度目の緊急事態宣言の直前となり、「ぎりぎりセーフ」での開催でした。

昨年4月定期で予定されていたベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」。これは演奏会自体が中止になったので、その持ち越しのような形でモーツァルトのミサ曲を含むプログラムでの演奏会でした。

「戴冠式ミサ」
英語表記は〝Coronation Mass” (Corona=冠)。これを知ったときは「エッ?」となりましたが、コロナ禍にちなんだとしたらブラックユーモア過ぎるので単なる偶然なのでしょう。
合唱団、およびソリストの配置は昨年第九のときと同じ。
合唱団はマスク着用での歌唱。
実はこの演奏を聴いた後、少々考え込んでしまいました。この状態で合唱曲を演奏することに意味があるのか、と。マスク合唱では、特に高音の響きがマスクに遮られてくぐもってしまう。本来のクオリティがそがれた状態のものを提供することになってしまっているがそれでいいのか?コロナ禍なので仕方ない、今はこれが精いっぱい、合唱ができることで良しとしよう、でいいのか?今の状況が収まり、マスクなしで歌えるようになるまで待つべきではなかろうか?・・

と考えてしまったのは、私の所属する関西フィル合唱団で6月定期にドヴォルザーク「スターバト・マーテル」を演奏することになっているからなのですが、今の状況で「なんとか演奏する」よりも、マスクなしで、よりよい演奏ができるまで延ばして欲しい、とこの演奏を聴いて思い始めました。美しい旋律が多く含まれるこの曲は是非とも歌いたい思い入れの強い作品なので、納得のいく演奏にしたい。近ごろ「ニューノーマル」なる言葉をよく耳にしますが、「マスクで合唱」はニューノーマルたり得ない、とも思っています。

話がそれてしまいましたが・・ソリストは昨年予定されていた4名の方そのままで、大好きな清水華澄さんも。しかし、「ミサ・ソレ」よりも随分とコンパクトなこのミサ曲、アルトのみのソロはなく、「華澄さん無駄遣い」感も(笑)。とはいうものの、ソプラノ並河寿美さんとともに明るく華やいだオーラを放っておられて、それを見れただけでも満足でした。

1曲目の吉松隆「朱鷺によせる哀歌」。
この作品あるいは吉松さんの作品を「現代音楽」と括っていいのかわかりませんが、敬遠する人も多い「現代音楽」、私はできるだけ先入観を持たず、フラットに受け入れようと心がけています。そこに意外な発見、新鮮な驚きがあったりもして、自分の中の引き出しが増え、心豊かに過ごせると思っているからです。

が、しかし、この楽曲。ちょっとこれは「ビミョー」でした。というのが、冒頭ヴァイオリンの奏でる超高音の「キィィー」という音(朱鷺の啼き声?)が、背中にゾーっと寒気を覚える一歩手前だったからです(笑)。プロの奏でる「上手な」響きなのでなんとか耐えられたのですが、ちょっと勘弁してほしい・・
プログラムには「調性の復活」と書かれていましたが、いつ、その「調性」を持った旋律を聴かせてもらえるのだろう?と待っているうちに曲は終了。
二群に分けた対面配置の弦楽器とその中央に置いたピアノで朱鷺が翼を拡げた姿を表している、そのアイデアは面白いと思いましたが、いかんせん「生理的に受けつけない」と感じた初めての音楽でありました。こんなこともあるさ。残念。

バルトーク「管弦楽のための協奏曲」
バルトーク作品は、よくわからないなりにも独特の「夜気を帯びた透明感」に魅せられることがあります。今回はその「よくわからない」を少しでも潰しておこうと、それなりに予習はしました。ネットで調べると、あるアマオケのHPで譜例を引いて細かく楽曲解説してあるものがあり(便利な世の中、親切な人たち)、それを見ながら、ベルリンフィルのアーカイブを2回ほど視聴しました。だけど、やっぱりよくわからない(笑)。一度聴いただけで覚えられる旋律が少なすぎて頭に入ってこないのです。仕方ない、わからないものはわからないなりに感覚で味わうことにしました。1か所、ヴィオラから始まるとても美しい「歌」があって、それは今も脳内再生されています。

合唱ひな壇を残したまま、前方に集まった感じで演奏されたオーケストラの音色は、ぎゅっと濃縮されたような密度の高い煌めきがあり、その響きの美しさには魅せられました。

というようなことで、昨シーズン定期のいずれの演奏会でも感じたような、たっぷりと音楽に浸るような充実感は残念ながら今回は味わえませんでしたが、いろいろと考えさせられることの多い演奏会ではありました。

カーテンコール時。
尾高マエストロが中央でお辞儀をされ、そしてぱっと両手を挙げて「切る」動作。すると一瞬でぴたっと拍手がやみ、マエストロはひと言、「コロナに、負けない!」。再び満場の拍手。メッセージも良かったですが、それよりも、そのわずかな動作だけで静寂を作り出せるところがさすがマエストロ!と別のところに感服したのでした。

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