2021年5月2日(日)びわ湖クラシック音楽祭「近江の春」〈配信〉

10時~ びわ湖ホール 大ホール〈配信〉

昨年に続き、今年も緊急事態宣言下のGWとなってしまいました。
そんな休日の「ライブ配信視聴」というのはとても正しい過ごし方のような気がして(笑)、「1日視聴券」を購入し、正にまる1日、朝から晩まで全公演を鑑賞しました。

この毎年恒例の音楽祭、2年前はびわ湖合唱のお友達と途中ホールのフレンチレストランでのランチを挟み、オーケストラ、オペラ、リサイタル、合唱、と一日たっぷり楽しんだものです。更にその前の年は、ひとりで出掛けたリサイタルで隣席の方と仲良くなり、その方がプロのハープ奏者だったという素敵なご縁も授かりました。

そんな楽しい記憶に彩られた音楽祭なのですが、昨年は中止。そして今年は「なんとなく」足が向かず——この時点で何らかの「予感」が働いていたような気がするのですが——初めから配信で視聴するつもりでいたところ、予感的中での「緊急事態宣言」発令。大阪、兵庫でのコンサートはホールが閉館となり軒並み中止となっていったのですが、滋賀県でのこの音楽祭は無事開催。関西にはびわ湖ホールがある。本当によかったです。

◆10:00~「ベートーヴェンとその高弟たち」福川伸陽(ホルン)/山中惇史(ピアノ)
ホルンのソナタ、というなかなか聴く機会のないプログラム。ベートーヴェンのヘ長調のソナタ、森の奥から聴こえてくるようなホルンの音色が明るく清々しい。ツェルニー作品は思いがけず?メロディアスでどことなく演歌のような節回し。「ツェルニー」だけあって、ピアノパートが華麗。ピアノ作品にホルンが乗っかっている感じに聴こえたのですが、演奏される側も思いは同じだったようで、山中さん「これ、ホルンソナタですよね?(笑)」この数週間の練習は殺伐と大変だった、とのことでしたが、しかしそのピアノがとても素晴らしく、青年らしい瑞々しさ、粒立って澄んだ音色の美しさにすっかり魅せられてしまいました。このところのマイブームは「ピアノ」なので、ピアノに耳が向いてしまいがちなのです(笑)

◆11:20~「いざ傑作の森へ!」児玉麻里(ピアノ)
昨年ベートーヴェン・イヤーのプログラムがスライドした形でソナタ2作品、「月光」と「ワルトシュタイン」。
まず先ほどの山中さんとは全く音色が違うことに驚愕。この数十分の間で、青年のピアノが何十年か年を重ねたような渋い色彩の音色に変わっていたのです。幕間に調律されたのでしょうが、弾く人によって同じ楽器がこれほどに違う音色で奏でられることは驚きでありました。そして児玉麻里さん、とても長身なのですね。手が大きい、指が長い。手元を映すアングルもあったのでよく見えたのですが、男性の山中さんより大きいのでは?と思われました。演奏家もアスリート同様、体が大きい方がなにかと有利なのかな、と、これも最近よく考えていることです。

◆12:40~「もしもあなたと一緒になれたなら」石橋栄実(ソプラノ)/藤井快哉(ピアノ)
石橋栄実さんの魅力がぎゅっとつまったとっても素敵なプログラム!
ご自身で選ばれた曲目は「喜怒哀楽」の順に並べてあり、言語も独・仏・日・伊 とそれぞれ異なっており、そのプログラミング・センスが素晴らしい。そして栄実さんが「この大ホールで歌えて嬉しい」と仰っていたように、その声の響きを聴いて「あ、びわ湖ホールの響きだ」と私も嬉しくなりました。プーランクの珍しいオペラを持ってこられたのは「みつなかオペラ」の流れかしら?と思ったり、一昨年急遽代役を務められたモノオペラ「声」(素晴らしかった!)を思い出したり。音楽祭ならではのパフォーマンスも楽しめましたし、なにより伸びやかでホールに気持ちよく響く高音に魅せられました。ピアニストの藤井快哉(よしき)さん、長身で渡辺謙?仲代達矢?似の風貌、カッコいい。

◆14:10~「女の想い~シューマン歌曲集」福原寿美枝(メゾ・ソプラノ)/船橋美穂(ピアノ)
シューマンのリート2作品。配信の利点のひとつとして、解説を読みながら鑑賞できる、ということがありますが、この公演はネットで探した対訳を見ながら聴いてみました。「女の生涯」とはどんな内容なのか興味があったからでもあります。が、しかし、その歌詞は、具体性のない観念的なもので——鑑賞者の想像力、或は知性を試されている?——途中からどうでもよくなり(笑)、ひたすら福原さんのアルト・ヴォイスを聴くことだけに集中。日本人離れした、という表現が妥当かわかりませんが、深い深い響きの声。これは私たち鑑賞者の「宝」であるな、と思いました。ジャズやソウルを歌ってもきっと嵌る声質。よくぞクラシックを歌ってくださっている、ありがたい!と勝手な感謝の念さえ沸き起こりました。

◆15:30~「ベルカント!」砂川涼子(ソプラノ)/清水徹太郎(テノール・友情出演)/河原忠之(ピアノ)
これぞオペラ!のアリアを、可憐なプリマドンナ砂川涼子さんが歌う、オペラハウスびわ湖ホールにぴったりの公演。スザンナ、ミカエラ、ミミ、リューなど、リリコ・ソプラノの代表的なアリアが並べられ、これはどれもキュン!と胸に刺さりました。砂川さんの凄いところは、可憐なイメージでありつつも声量が非常に豊かであること。同じソプラノでも石橋さんのホールと共に歌う感じとは異なり、砂川さんの声には体の内から強い芯を持って響いてくる印象を持ちました。「愛の妙薬」では清水徹太郎さん、「愛の焼酎」ボトルを掲げての演唱は四大テノールの延長?(笑)透明でピュアなネモリーノにキュン!最後は「トゥーランドット」から「氷のような姫君の心も」。これは初めて聴いた時から持っていかれた大好きなアリア。リズミックで勇壮な後奏、河原さんの大迫力のピアノはさすがでした。

◆17:30~「悪役を歌う」黒田博(バリトン)/河原忠之(ピアノ)
このタイトルがそもそもキャッチー。「悪役を歌う、ですが、『悪役を歌え』と芸術監督に言われまして」と黒田さん。そういえば、ローエングリンのテルラムント=悪役、素敵でした。悪党にも等級があり、後半2曲の「トスカ」スカルピアと「オテロ」イヤーゴは「第一級」とのこと。悪ければ悪いほど、役として魅力的なものだな、と感じました。
黒田さんと河原さんの掛け合いMCもあり、イタリア留学中同じ先生に教わったことなど興味深いお話しも。
ところでこの「悪役」の趣向、他にも転用できるな、と、このあと妄想(笑)。「悪女」「魔女」「ファム・ファタル」あたり、使えないでしょうか?(いずれもメゾ)。

◆18:20~「生誕93年~田中信昭の至芸」田中信昭(指揮)/びわ湖ホール声楽アンサンブル/中嶋香(ピアノ)
3年前「千人の交響曲」で合唱指導していただいた際の感想ははっきり言って「最悪」。その記憶が蘇るのもいやなので、もうこれは観ないでおこうかと当初は思っていたのですが、せっかくここまで観たのだから、と最後のこの公演も鑑賞することにしました。
信昭先生、足取りは確かでいらっしゃるけれど、こまごまとした動作は難しいご様子で、指揮台の上に楽譜を拡げる、終わった曲の楽譜を外す、などはテノールの谷口さんが列から出てきて行っておられました。MCも楽譜表紙に書かれた短いメッセージをなんとか読み上げるといった有様で、無理に喋らなくてもよいのに、と思ってしまいましたが、指揮はしっかりと確かなものでした。この先身の回りのことが一切できなくなってしまっても、指揮だけはできるのではないか? とさえ感じてしまいました。
日本人作曲家による作品は、いずれも凝ったアレンジが施されたもので、これはプロ歌手による合唱だから成立しているのだと思ってしまうものも。林光「うた」はピアノ伴奏が豪壮で、先生の奥さま中嶋香さんのピアノの迫力が凄まじく、この日聴いたピアノのなかでおそらく最強の重低音、驚愕でした。
予定時間を大幅に過ぎて、19:20頃終演。

あっという間に過ぎてしまった一日でしたが、公演の合間の時間に家事や食事などを済ますこともでき、充実した一日でありました。音楽そのものを鑑賞するには会場で聴くのがいちばんですが、テレビマンユニオンによるこの配信は音質もよく、座席からでは見えないアングルで見ることもできたので、満足度が高いものでした。

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