2024年3月9日(土)The Real Chopin×18世紀オーケストラ 京都公演

14時開演 京都コンサートホール

オランダに本拠地を置く「18世紀オーケストラ」の来日公演。

18世紀オーケストラは、リコーダー奏者フランス・ブリュッヘン氏が私財を投じ1981年に結成した古楽オーケストラで、定期的に来日しているそうですが、今回は「The Real Chopin」と銘打たれ、ショパンのコンチェルト1番と2番をメインにしたプログラムでの公演。川口成彦さんのフォルテピアノの演奏でピリオド楽器の魅力に目覚めてしまった私にとってはぜひ聴いておきたい演奏会でした。

2018年に第1回目が開催された「ショパン国際ピリオド楽器コンクール」の覇者トマシュ・リッテル氏と、2010年のショパンコンクール覇者ユリアンナ・アヴデーエワ氏をソリストに迎えた豪華な布陣で、ピアノもオーケストラも素晴らしく、満足感でいっぱいの演奏会でした。

1曲目はオーケストラのみの演奏でモーツァルトの交響曲第3番「ハフナー」。
指揮者を置かず、コンサート・マスターがチェロ台と思しき低めの台に載って合図を出しながらの演奏。チェロ以外の奏者は全員立ったままでした。金管楽器(ホルン、トランペット)も無弁の古楽器。弦6型で聴き始めには「音が小さい」と感じたのですが(ホールの響きのせいかとも思いましたが)すぐに慣れました。

続いて、リッテル氏のピアノでショパンのコンチェルト2番。
オーケストラ(着席)の前奏に続き、ピアノ独奏が始まった瞬間、「これは上手い!」と。モダン・ピアノに比べて響きが少ない分、打鍵がそのまま聞こえてくるのでピアニストの技量が露わになるのですが、その音の粒立ちの鮮明さに心の中で唸ってしまいました。これが聴けて良かった、と早くも大満足。

そして、ピアノもオーケストラもこれが当時の響きであり、ショパンが想定していた響きなのだと思うと感慨深く、タイムマシンに乗って19世紀のホールへ旅したような気分にもなりました。

その打鍵技術の素晴らしさは、後半のアヴデーエワ氏も同様。加えて、1楽章の中間部分あたりでは、アルゲリッチを彷彿とさせるかなり速めのテンポで攻めてくるかと思えば、たっぷりのルバートで歌いまわし、そのテンポコントロールの絶妙さと歌心には、胸に込み上げてくるものがありました。やはり素晴らしいピアニストです。

大ホールでコンチェルトを聴くと、フォルテピアノのダイナミックレンジの限界を感じてしまうのですが、その分、限られた音量差での繊細な描き分け、歌心、そしてキラキラと細やかな粒立ち‥と優れたピアニストで聴く醍醐味を存分に味わうことができました。

ちなみにコンチェルトでも指揮者はなし。コンサート・マスターと、時にピアニストも合図を出していました。ピアノは通常の舞台に平行な配置ではなく、ピアニストが客席に相対する向きでやや1st ヴァイオリン寄りに傾けて置かれており、コンサートマスターを含め奏者とピアニストの距離が近く、コンタクトは取り易そうでした。指揮者を介さない分、直に意志が伝えられて、こちらの方がやり易いのかもしれないとも思いましたが、やはり慣れていないと難しいかもしれません。気になって、帰宅後に2018年のコンクール本選の動画を観てみましたが、コンクールでは指揮者がいました(よかった笑)。

後半のコンチェルト1番の前には、藤倉大氏が昨年の第2回ピリオド・コンクールの委嘱を受けて作曲したピアノ曲「Bridging Realms for fortepiano」がアヴデーエワ氏で演奏されました。
ピリオド楽器のための現代曲。なんだかパラドックスみたいですが——近年では古楽器演奏のジャンルも確立され、フォルテピアノは「昔のピアノ」ではなく、独自の音色と特質を持った別の楽器、という捉え方になりつつあるのですね。そのキラキラ、さらさらとした音楽を聴きながら何故か「洋琴」(明治時代のピアノの和名)という言葉が頭に浮かびました。

ちなみに今回使用された楽器はタカギクラヴィアが所有する1843年製のプレイエル。ショパンが活動していた時代の楽器です。
リッテル、アヴデーエワ両氏ともに、最高音のあたりでミスタッチかと思う瞬間が複数回あったのが気になったのですが、楽器にその原因があったのかもしれません——と言っても全体からすれば些細なことではありますが。

それにしても——現在では産業革命以来の楽器の進化は止まり、成熟しきってしまったので、逆に古いものが新鮮に思えるようになってきたのでしょうか。同じクラシック作品を、作曲当時の楽器でも現代の楽器でも楽しむことができる、随分と贅沢な時代になってきました。

 

◇ソリスト・アンコール
リッテル:シューベルト(リスト編)「ドッペルゲンガー」
アヴデーエワ:ショパン マズルカイ短調 op.67-4

お二人ともカーテンコール時の袖との行き来は1回のみで、サッとピアノの椅子に座って弾き始める——勿体ぶらず、決めてあることはササッと実行!——爽快でした。

◇座席
2階L席後部
首が痛くなり、後半こっそり席替え(スミマセン)。ちなみに客入りは6~7割程度。

◇その他
終演後、プログラムもしくはCD購入者対象のサイン会あり。もちろん並びました。
同じくKAJIMOTOのカントロフ氏のリサイタルでもそうでしたが、500円のプログラムでサイン付きはありがたいサービスです。

銀ラメ黒ボーダーのタイトなパンツスーツにピンヒール、髪を高く結い上げたカッコいいアヴ姐さん。驚くほどに低音のアルト・ヴォイスも印象的でした。

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