2023年6月16日(金)原田慶太楼指揮/関西フィルハーモニー管弦楽団第338回定期演奏会 ヴァイオリン服部百音

19時開演 ザ・シンフォニーホール

吉松隆、ファジル・サイ——現在注目を集める人気作曲家を取り上げた興味深いプログラム。
そして素晴らしい演奏会でした。

最近その作品に接する機会が多くなった吉松隆氏。YouTubeのクラシック・チャンネルで紹介されていて興味が湧き、生で聴いてみたいと思っていたところ、渡りに船的タイミングで関フィル定期にプログラムされていました。

なので、前半に演奏されたファジル・サイのヴァイオリン協奏曲「ハーレムの千一夜」は当初ノーマーク。しかしこちらのインパクトも大きく、とても充実した鑑賞体験となりました。

「ハーレムの千一夜」は、タイトルの通り「アラビアン・ナイト」の世界を描いた音楽で、打楽器に民族楽器が使われていたり、トルコ民謡のメロディが引用されていたり、と異国情緒あふれる作品。これがトルコ=イスラム文化圏出身の作曲家によるもので、「内側」から生み出されたことはとても意義深い。19世紀後半の国民楽派から100年以上を経た今、非ヨーロッパ圏から生まれた新しい国民楽派とでも言える音楽では?などと聴きながら考えました。

服部百音さんの演奏——演奏というより、パフォーマンス、といった方が相応しいと思いましたが、この作品の魅力をたっぷりと伝えてくれる素晴らしいものでした。アラビアを連想させるデザインの衣裳で、ドレスはキラキラと夢のように美しく、右腕のバングルも素敵。見た目からもその世界に誘われました。前後に激しく動きながらの演奏で、途中指揮台にぶつかりそうになる場面もありましたが(後にプログラムを読むと、この作品はコパチンスカヤ氏のために作曲されたとのことで納得)、踊り子の舞を見ているような気にもさせられました。

この作品の山場、第三楽章に登場するトルコ民謡「ウスクダラ」の哀愁漂うメロディが大変に美しい。ソロ・ヴァイオリンとともにオケも盛り上がり歌いあげる。聴衆も演奏家も、求めているのはやはりこういう音楽ではないかと思った次第です。

途中で舞台の照明が落とされ、再び灯されるといった時間の経過をあらわす演出も効果的。そしてなんと言っても終盤の朝を告げる小鳥のさえずり!これは百音さんの超絶技巧によるものでしたが、百音さん自身が早朝に小鳥の鳴き声を録音し、それを何度も再生し音程を確認して作り上げたものだったとのこと。その熱意には心動かされるものがあり、本当に小鳥の声に聴こえる音色と技巧にも感嘆しました。

と、前半だけで大変な満足感だったのですが(先日のセンチュリー定期と同じ)、後半がメインの吉松隆「交響曲第3番」。全曲を通して、不協和音もありながら楽器の音色が美しく響く音楽。聴きながら「表象音楽」という言葉が浮かんだのですが、自然現象を表しているように聴こえます。しかし標題音楽ではないので、こちらが自由に何かを思い浮べる余地がある。また盛大に鳴るオーケストラをたっぷり楽しめる音楽でもありました。

この交響曲は藤岡幸夫マエストロに献呈された作品ですが、藤岡マエストロが若い指揮者に振って欲しい、と熱望(指名)されたのが原田慶太楼マエストロ。TVなどで拝見することが多い原田マエストロですが、生で拝見するのはこの日が初めてでした。

動作が大きく非常にキビキビとした指揮。1曲目の「運命の力」序曲は、アゴーギクを強調して歌を意識させるような演奏であった一方、タテ方向に飛び跳ねるような指揮ぶりからか、レガートの感じられない音楽だったのは少々残念。しかし、吉松作品のコーダ部分でオケ全員が起立し、マエストロはジャンプ!で締めくくったのは快哉!でありました。

カーテンコール時は吉松隆氏も登壇され(歩く横姿はブラームス!)、大変な盛り上がりでした。「作曲家が生きているっていいなぁ」とクラシック音楽ならではの妙な感慨も(笑)。

 

◇ソリスト・アンコール
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番「バラード」

◇座席
2階5列目下手側。
人気の指揮者・ソリストの効果もあってか、このプログラムでも7割程度の客入り(多い)。

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