2023年3月19日(日)沼尻竜典×京都市交響楽団 マーラー交響曲第6番「悲劇的」

14時開演 びわ湖ホール大ホール

3週続けてのびわ湖ホール。
毎年1回ずつ開催されている「マーラー・シリーズ」の4公演目で、沼尻マエストロの芸術監督任期最後のびわ湖ホールでの公演でもありました。

今回予習するまでは、あまり集中して聴いたことがなかった6番。
大仰で滑稽にも聴こえる冒頭のマーチに「桃太郎の凱旋」と勝手にタイトルつけたりしてました。あとは終盤のハンマーばーん!の印象でしょうか。

しかし、このたび予習でいくつかの演奏を聴き、これはかなり好きな作品だと思うようになりました。ワーグナーのライトモティーフのように、わかりやすい主題が一貫して現れ、その悲劇を暗示するような半音下がって短調になる和声に感情移入しやすいこと、また、突然の曲想変化が殆どなく気持ちがついていきやすいことなど「取っつきやすさ」がその主な理由ですが、それに加えてマーラーの分厚いオーケストレーション!大袈裟音楽大好き人間にはぴったりとくる作品でもあります。

さて当日。14時開演の5分を過ぎてもオーケストラの入場がなく、遅いなぁと思い始めていたところ、マエストロがマイクを持って登場。
「まだ当日券を買っているお客さんが8組もいて開始を遅らせるので、場つなぎのために何か喋って来いと言われた」とのことで、急遽のプレトーク。「急に喋れと言われても(ジルヴェスターコンサート司会の)米團治さんみたいに話のプロではないので」と仰るけれど、その口調はいつもの江戸落語家風(笑)。

しかしそこはやはり流石で、ユーモアを交え、この日の演奏についての解説をしてくださいました。(遅れて当日券を購入された方々ありがとうございます!)

まずマーラー自身も迷っていたという、2楽章をスケルツォとするかアンダンテとするかについて。これはスケルツォが1楽章と同じ調性で激しい音楽なのも同じだが、まとめて演奏しておいて、30分くらいある長い4楽章の前にアンダンテを入れた方がよい、という考えで、その順番で演奏するとのこと。

そして4楽章のハンマーについて。2種類のハンマーを試してより相応しい音のものに決めた、この場面ではハンマー台が割れるなどの事故が起こることがあるが「ある赤坂のホール」では、ハンマーを振り下ろす前に後ろの壁に当たって壁が壊れ、しかも何年も修理されないままだったというエピソードの紹介も・・。回数については(2回とするか3回とするか)これは聴いてのお楽しみ、ということでした。

15分ほど遅れての開演。
編成は弦14-12-10-9-7と低弦を厚くしてありました。そしてその後ろに並ぶ管楽器の多さと多種多様なパーカッション類。豪華。これだけの楽器が並んでも余裕の広さの舞台も嬉しいところです。

京響の奏でる音はとても煌びやか。舞台から金色の光が放出されているかのようでした。
ヴァイオリンの艶やかさとともに、トランペットの細く強い音色も素晴らしい。各楽器の音色が美しいからか、冒頭のマーチの滑稽さは殆ど感じず——滑稽な印象は聴いていた音源の演奏から来るものだったかもしれない、とも思いました。

3楽章アンダンテは桃源郷の世界。弦のなだらかで柔らかな音色が陶酔感をもたらしますが、同時にそれは長くは続かないことを暗示するかのような、少しくぐもった響きであったことが印象的でした。つかの間の天国的なハープから始まる4楽章は起伏に富み、いよいよ運命のハンマー。ハンマーは2回でした。3回目はチェレスタによるものでしたが、このチェレスタの音量にハッとしました。こんなに大音量が出る楽器だったとは。

ところで、ハンマーを叩いたのは屈強な男性ではなく、女性奏者(しかも細身)でした。素晴らしい!冒頭のスネアドラムも彼女で、開演前にずっと練習されていました(おかげで1楽章がどのようなテンポ感なのか事前に知ることができました笑)。カウベル演奏のため、度々舞台袖との往復もされていて、この日のMVPは彼女では?などと思いながら拝見。終演後にはBravoの声援も。

この作品の特徴のひとつは、曲全体にわたって、時折明るい曲調とともにカウベルの音色が聴こえてくること。カウベルはバンダ(舞台袖)であったり、舞台上で複数の奏者によって演奏されたり遠近感もつけてあります。その平和で長閑な音色は何をあらわしているのでしょうか。悲劇的なことが起こってもそれは個人的なことであり、周りの社会は平穏な日常ですよ、とでも言いたいのか——私は新聞配達などの「スーパーカブ」のエンジン音に日々の平穏を感じるのですが、それと同類?などと想像するのも楽しいものです。

終盤のオーケストラは驚くばかりの爆発的な大音量。終末を告げるかのようなラッパとティンパニ。そして弦のピッツィカートでの結び——「こと切れる」という言葉が浮かびました。プレトークでマエストロが「余韻を楽しんでください」と言われた通りに、しばしの静寂が客席を覆ったのでした。

久々に”Bravo!”も多く聞かれた長いカーテンコール。そしてマエストロへの花束贈呈。すべて深紅のバラの大きな花束。その後何本か抜き取って舞台に再び現れたマエストロがコンマス石田組長と前方の女性奏者に渡されていました。

その後も拍手は鳴りやまず、マエストロの一般参賀あり。スタンディング・オヴェイション。

あぁ、ついに終わってしまった!

ではなく(笑)、今年の8月にはマーラー・シリーズの7番「夜の歌」の公演があります。
その他にも11月には同じく京響で「指環」のハイライト公演もあり・・びわ湖ホールでオペラを振るマエストロが見れなくなるだけで、まだまだ関西でも拝見する機会があるのが嬉しいところです。

 

◇座席
3階下手側5列目。やっぱりマーラーを聴くには全体が俯瞰できる上階ですね!
発売日を失念していて少し後ろになってしまったので、次回のマーラーは3階最前列を狙います!
2列前に岡田暁生先生、斜め前ブロックに声楽アンサンブルの大川先生、後方に声楽アンサンブルの方が数名、と関係者が多いエリアでした。

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