2020年10月16日(金)小林研一郎指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団第542回定期演奏会

19時開演 フェスティバルホール

今回は当初プログラム前半の合唱曲がベートーヴェンの2番に変更になり、指揮者もイタリア系アメリカ人のロバート・トレヴィーノ氏が「コバケン」こと小林研一郎マエストロに変更になっての演奏会でした。

チャイコフスキーの番号なし標題交響曲「マンフレッド」。年代的には交響曲第4番と5番の間の作品で、バイロン卿の劇詩「マンフレッド」を題材とした交響曲を友人バラキレフに依頼され作曲したもの。ちなみに当初バラキレフはベルリオーズに依頼したものの病気と老齢により断られ、次に白羽の矢が立てられたのがチャイコフスキーだったとのこと。現代になってみても、その2人への依頼はとても妥当なものだったと思われて興味深いです。

ほぼ毎回、演奏会には「予習」をして臨み、その段階でハマるのですが、この「マンフレッド」も例に漏れずハマってしまいました。冒頭に提示される「マンフレッドの主題」。さすがクラシック音楽界きってのメロディ・メーカー、チャイコフスキーだけあって、これは一度で耳に残ります。そして今でも頭の中をグルグルと回っています。

低くくすんだ音色のヴァイオリンは吹雪、チェロ・コントラバスの「ザッザ」という刻みは雪を踏みしめ歩く様子を表現しているのでしょうか?その情景描写とともに、アルプスの山中をさまよい歩く「超人マンフレッド」の苦悩がまるで映画のシーンのように思い浮かびます。

ちなみに冒頭の旋律を奏でるのは、ファゴットとバス・クラリネット。途中にもバス・クラリネットのソロがあり、かつて中学・高校の吹奏楽部でバス・クラリネットを吹いていた私はなんだか嬉しくなりました。中学生の頃に知っていたら楽譜を手に入れて吹いていたかもしれません。

前半のベートーヴェン交響曲第2番の第1楽章では、「第九」にそっくりの音型が現れ、第九のスケッチかと思われるのですが、「マンフレッド」には「白鳥の湖」に似た音型が出てきます。ただし、「白鳥」の悲哀を帯びた旋律とは趣を異にし、こちらは黒く巨大な鳥がバサバサと鉛色の空を飛んでいるような不気味なイメージで、さしずめ「怪鳥の湖」。マンフレッドの超人的な能力や、抗い難い運命を感じさせる音楽です。

気になったので後ほど調べてみましたが、「白鳥の湖」はこの曲より11年前に初演されているので、これは白鳥のスケッチではない模様。そして、その過程で「白鳥の湖の主題はワーグナー『ローエングリン』に影響を受けたもの」ということも知りました。音楽の連鎖。面白いです。

ところで、これは今までにない体験?なのですが、曲の終盤あたりで、シベリウスの交響曲第2番の有名なフレーズが、突然頭の右半分で鳴り始めたのです。それを想起させる似た音型があったのかもしれません。「そういえば、この曲をこのホールでドゥダメル/ウィーンフィルで聴いたけど、あれは何年前だったっけ?」などと考え始めてしまい・・「ちょっと!今聴いているのはキミじゃない!出ていってくれ~」と頭右半分から追放しました。生の音楽を聴きながら、まったく別の音楽が頭の中で鳴る。こんなことは初めてで、不思議な現象でした。

小林研一郎マエストロは、今年80歳とのことですが、小走りで舞台を出入りされるなどとてもお元気。ベートーヴェンもチャイコフスキーも暗譜!でした。途中振ることをやめて、オケに向かって「さあ、聴かせておあげなさい」とでもいうように両手を下に向けて広げる動作など、年季を経ないとできないようなパフォーマンスもあり、思わず微笑んでしまいました。いつもは事務局の福山さんがされるプレトークもマエストロ自らされて「どうぞお聴きになってください」と。これで一気に聴衆の心は掴まれたのではないでしょうか。終演後も、鳴りやまぬ拍手に応えて、今度はマイクを持っての登場。「明日も来てください」と。これで翌日行った方もおられたかもしれません(笑)。

実は、以前在籍していた合唱団で、指揮者練習に来られた際のいろいろ(悪口です)を聞いていたため、あまり好印象ではなかったのですが、観客として行ってみると、そのチャーミングな「エンターテイナー」ぶりに魅了されました。さすがですね!

飯守泰次郎マエストロのブルックナーも素晴らしかったし、海外の指揮者が来日できないことによって、国内の重鎮マエストロの演奏が聴ける、と、これもなかなか良いものだと今回実感しました。

なお、今回も弦は16型でしたがプルトが復活。なので、ステージからはみ出んばかりの前回よりもコンパクトに収まっていました。しかし、毎回16型で演奏会を開いてくださる大フィル。ありがたいです。定期会員になってよかった、と感じています。

◇座席
政府の制限緩和を受け、今回から券面通りの座席に戻りました。
が、1日目のこの日の観客の入りは少なく、以前の市松配席でも対応できたのではないかと思うほどでした。主催者の方には申し訳ないけれど、両側の空いている市松配席、やっぱりよかったな、と改めて思った次第です。

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