19時開演 兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール
今最も聴きたいヴァイオリニスト、辻彩奈さんのリサイタル。
素晴らしい演奏でした。
今回はベートーヴェンのソナタ3作品という、王道かつ攻めた感もあるプログラム。
ピアノの伊藤恵さんも素晴らしくて——1曲目、第2番ソナタのピアノ主体での入り部分から、ハッと胸を掴まれる美しさがあり、早くも涙が滲んでしまいました。秒殺でした。
音の響きが美しいことは分かっているのですが、この涙腺が緩む要因は一体何なのでしょう?長調で泣かされるメロディ・ラインでもないのに、我ながら不思議です。
ところで、私だけの感覚かもしれませんが、個々のヴァイオリニストの持つ音色には、硬くて細い線から太くて柔らかい線まで、鉛筆の硬度のような個性があるように感じています。その中で辻さんの音色は、どちらも兼ね備えたちょうどよい位置にあって、それに艶やかさと強さ、音量の豊かさも備えている。そして常に「ど真ん中」を捉えた確かな音程。バットの芯を捉えた打球がホームランになるような快さがあります。これが豊かな音量を生み出す素であるようにも感じました。
1曲目が終わったあとに、辻さんのトークが入りました。
今回オール・ベートーヴェン・プロ、としたのは、これまでに伊藤恵さんと5番から9番までを演奏したことがあるので、また一緒に勉強させていただきたいと思ったから、とのこと。残り1番、4番、10番でコンプリートなので、いつか演奏したいです、とのことでした。はい、楽しみにしています!
また、初めて演奏するこのホールは音楽仲間からも音響がよいと聞いており、実際リハーサルの時からこの美しい響きがそのままお客さんにも届くのだろうなと思った、とのことでした。
私もこのホールは音響も規模も形態もリサイタルを観賞するのに最適なホールだと毎回実感しているのですが、実際に演奏家の口からそうお聞きすると、ますます美しい響きに聴こえてきます。素晴らしい演奏、美しい響きで幸福感で満たされた時間でした。
伊藤恵さんはテクニックの確かさとベテランならではの安定感、そして包容力——なんだかオペラのコレペティトゥーアとソプラノ歌手を見ているような気にもなりました。ピアノの打鍵は明確なのですが、音量は常に抑えてあり、主張しても強すぎない絶妙のバランス感覚。ペダリングも見たかったのですが、たっぷりとしたドレスの裾で見えなかったのが少々残念(笑)。笑顔も素敵で私の幸福感も倍増でした。
◇アンコール
クライスラー:ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
◇座席
中央ブロックE列のほぼ中央。ぎりぎりピアニストの手元が見える位置(もう少し下手側が希望でしたが叶わず)