2023年2月4日(土)藤田真央 モーツァルトピアノソナタ全曲演奏会 第5回

14時開演 京都コンサートホール小ホール

5回シリーズの5回目、とうとう最終回を迎えてしまいました。

1月22日のハンガリー国立フィルとの共演後にニューヨークへと旅立ち、1月25日のカーネギーホールでのリサイタルを成功させ、帰国後最初の演奏会がこの日。
お見送りしてお出迎えです。

シリーズ最後のこの回が私としては最も感動的でした。
今回は迷った末に下手側バルコニー席にしましたが、音を紡ぎ出している手元が見えた方が、音をしっかりと認識でき、深く聴けたような気がしています。

それにしても、高音から低音まで、どこまでも粒の揃った高い品質の音。
「品質」と書くと工業製品のようですが、そう思ってしまうほどの精緻な打鍵技術に改めて感嘆しました。しかし、ふわっとした柔らかな手元から生まれてくるその均質な音の粒は丸くてあたたかい響きなのです。

加えて、今回の席では直接音がよく聴こえていたのか、前回の席よりも輝きのある音色で、より美しい響きで聞こえてきました。

前半は初期の3,4,5番。
それぞれキャラクターの異なる作品で、3番の後半に突然現れる諧謔性には、ふざけることが好きだったモーツァルトの性格を思い起こしたり(ここは笑っていいところなのでは?)、その一方で4番の静謐さにはその音色の美しさも相俟って涙目になってしまったり。即興の装飾音もチャーミングで美しく、前半だけでも満足感いっぱいの真央ツァルトでありました。

後半は後期の13番と18番。
18番は対位法が用いられており、このツィクルスの掉尾を飾るのに相応しい作品。モーツァルトのピアノソナタの中で最も難易度が高いといわれているそうですが、実に鮮やかな演奏でバッハを聴いているような構築美を感じました。

最後の和音を鳴らし、鍵盤からゆっくりと真央さんが手を離すと、拍手の前に長めの静寂がありました。あぁ終わってしまった——皆同じ気持ちで真央さんの指先を見つめていたのではないかと思います。

◇アンコール
チャイコフスキー:「四季」より「10月・秋の歌」
これを真央さんの演奏で聴けるとは!
昨年10月の北村朋幹さんのリサイタルでもアンコールで弾かれた曲で、実はそのあと自分でも弾いていました。
この演奏を聴いて、真央さんの音楽づくりが少しわかった気がしました。歌えるメロディを持っている曲なのですが、歌い過ぎず、聴き手が思いをのせる余白を残してくれている感じがするのです。押しつけがましさがない。それが真央さんの美学なのかな、と思った次第です。

◇その他
何度かのカーテンコールの後、左手にマイクを持っての登場で客席は歓喜。
カーネギーでのリサイタルの話が出るかと思っていたのですが、それは皆無。
2年ほどをかけたこのモーツァルトのシリーズは今回で終わりだけれど、今年7月には、スイスで(ヴェルビエ音楽祭でしょうか?)2週間で全曲演奏し、その後イギリスではなんと5日間で演奏するとのこと!過酷なオファーですが、真央さんなら楽々こなしてしまうのでしょう。

そして「これだけで終わるのは何なので、藤田家の話を」ということで、お兄様のお話——2歳上の兄は会社員なのですが、先日「ムンクの叫びを描いたのは誰?」とか言い出したのですよ。「ダリかな?いやピカソかも?」これが2日前の話です笑――少々不思議な兄理央くんの語るを黙って聞く弟真央くん――愛され天然キャラは遺伝と環境によるものでしょうか?(笑)

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