2026年6月14日(日) 久末航 凱旋リサイタル

14時開演 ザ・シンフォニーホール

昨年のエリザベート王妃国際音楽コンクールで第2位を受賞した久末航さんのリサイタル。
日本国内でのリサイタル・ツアーのファイナル公演でした。

一昨年、前田妃奈さんのヴァイオリン・リサイタルで初めて聴き、昨年末のびわ湖ホールジルヴェスターでは協奏曲のソリストとして聴き、そして3回目にしてやっとリサイタルで聴くことができました。

プログラムは、現代、近代、古典派、とレパートリーの幅広さを示す構成となっており、久末さんを知るためにはうってつけ、といっていい内容のものでした。

冒頭は私の大好きなラヴェル「高雅で感傷的なワルツ」。まず、この作品が聴ける、というのが嬉しい。透明感のある繊細な音色と芯の強さを感じる打鍵。何でも弾けて何でも似合うピアニストだなぁというのが、この演奏で感じたことでした。

続く現代作品のデュサパンの「ピアノのためのエチュード」。
久末さんは、楽譜を見たまま(初見で)サラサラと弾けてしまう人なのではなかろうか?と思ってしまいました。聴く側としては訳のわからない(失礼)音楽なのですが、彼の手にかかると「難解さ」という段階がなくなり、今耳に入ってくる音楽がそのまま素直に「へぇ、面白いなぁ」と感じられるのです。

ちなみにデュサパンは大学で科学を学んだのち、クセナキスに影響を受けつつ作曲を学んだ、とのことで、この作品は2017年のミュンヘン・コンクールの課題曲。第3位入賞の久末さんはこの作品の演奏で特別賞を受賞したとのこと。久末さんは、高校卒業後は大学で理系に進もうとされていたそうで(理系頭脳の音楽家は多いですね)、そこからも作曲家との相性の良さのようなものを感じます。

ということからの連想と実際の演奏から、これ以降の演奏も含め、「理知的なピアニスト」という印象を持ちました。
ピアノだけに没入するのではなく、どこか客観的に音楽の全体を俯瞰して捉えているような感じがするのです。指揮者向き?かもしれません。

デュサパンに続くのは、それとは対照的なフランク「前奏曲、コラールとフーガ」。時代がさかのぼり、オルガニストであったフランクの多層的で重厚な音楽。ピアノの音色がパイプオルガンに脳内変換され、その豊かな響きが教会の空間を満たす様を体感。音浴。

休憩後は、バルトークとベートーヴェン。
ここでも本領発揮の感――などと言うと、全部本領になってしまいますね。何でも弾けるピアニスト、ということでは、エリコンとの相性も良かったのではないか、と思ったりもします。

秀逸だったのは、バルトーク「3つのブルレスク」の第2曲「ほろ酔い」。酔っ払いが千鳥足であっちへフラフラ、こっちへフラフラ~おっとっと、立ち止まって、再びフラフラ~という様子がなんともコミカルに表現されているのです。フランクとは打って変わって、こんな軽妙な表現も優れている。素晴らしい。

掉尾を飾るのは、王道ベートーヴェンの熱情ソナタ。
この演奏を聴いて、前述の「指揮者向きでは?」の印象をより深くしました。シンフォニーを聴いているかのよう。怒涛のような激しさではなく、青白い炎のような熱情、とでも言えばいいのでしょうか。決して自分を見失わない感じ。

こういう印象をピアニストに対して持つのは初めてかもしれません。
「興味深い」ピアニスト。今度はまたガラリと異なったプログラムで聴いてみたい、と感じました。

◇アンコール
ドビュッシー:プレリュード集 第1集「亜麻色の髪の乙女」
リスト:超絶技巧練習曲 第12番「雪あらし」
メンデルスゾーン:無言歌集 Op.53-1「浜辺で」

◇座席
いつもの2階最前列下手側。
1週間前のダン・タイ・ソンの右側=チョ・ソンジン時と同じ席(笑)

◇その他
アンコール前にマイクを持って登場の久末さん(声も良し!)。ここシンフォニーホールは、子どもの頃3階席でポリーニを聴いたことがあるだけで、来館はそれ以来とのこと(サントリーホールは来館自体が初めてだったとの話も)。メジャー・コンクールの上位入賞は「檜舞台」に上がる大チャンスなのですね。
どうでもいい話ですが、以前生やしていた髭は剃られたようで――髭なしの方が青年らしくて断然いいです(笑)

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