2021年1月3日(日)風呂本佳苗ピアノリサイタル

14時開演 兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール

今年最初の演奏会は、地元西宮市出身のピアニスト、風呂本佳苗さんのピアノリサイタル。殆どが初めて聴くピアノ作品で、興味深く鑑賞しました。

ピアノリサイタルは久しぶりで、このブログを始めてからは初めて。以前は(といっても20年以上前)もっぱらピアノリサイタルばかりに行っていたのですが、ここ数年はオーケストラ、オペラに重点を置き、というか先にこれらのチケットを買ってしまうので結果行けていない、という状態が続いていました。最後に行ったのはいつだったかと調べたら、宝塚ベガホールでのシプリアン・カツァリスで、2019年2月17日。そんなに以前でもなくてなぜかホッとしました。

前半は、それぞれ趣きの異なる作品が4曲。
江文也の「元宵花灯」。江文也氏は1910年、日本統治下の台湾に生まれた作曲家で、山田耕筰等に作曲を学んだものの戦後日本国籍を失い、北京で生涯を閉じた、というまさに時代に翻弄された作曲家。近年再評価が進んでいるとのことで、演奏されたこの曲は、中国の小正月の賑わいを描いた作品。誰もが思う中国らしい旋律に彩られた佳品で、アイデンティティというのでしょうか、やはり中国人(この表現が妥当であるのかわかりませんが)にしか書けない音楽で、このような作品がこれから世界中に広まれば音楽界が更に豊かなものになるのではないかとの希望を感じる演奏でした。

そして、カプースチン。昨年NHKの番組でピアニスト川上昌裕氏の取り組みが紹介され、一度生で聴いてみたいと思っていたのでタイムリーでした。ジャズ(といっても、すべて記譜されている)ですが、なにしろ超絶技巧のかたまりのような音楽で、その音数の多さ、速さに圧倒されます。番組を観た際の感想は「1曲でお腹いっぱい」。ショパンの前奏曲へのリスペクトから同じく24曲からなる作品とのことですが、ショパンのそれのように、それぞれの曲にキャラクターがあり24曲通してもひとつの作品、というのとはかなり様相が異なります。なので、このプログラムでの4曲の抜粋はちょうどよい分量で楽しめました。

休憩を挟んで、第2部はベートーヴェン交響曲「運命」のリストによる改編(トランスクリプション)。シンフォニーのトランスクリプションは初めて聴いたのですが、面白いですね!
リストはその膨大な作品の大半がトランスクリプションで、自らがリサイタルで演奏するためのものと、録音技術のなかった当時、作品を世に広めるために行ったものとに大別されるそうですが、これは後者。オーケストラ版を聴き慣れた耳で聴くと、原曲の忠実な再現=ベートーヴェンへのリスペクト、とリストらしい技巧とのバランスがよく、といってもかなりの超絶技巧でありましたがーー華やかな演奏を楽しめました。

蛇足ですが、同日夜に放送されたNHKニューイヤーオペラコンサートでゲスト反田恭平さんが同じくリストのトランスクリプションで演奏した2曲(チャイコフスキーのエフゲニー・オネーギン「ポロネーズ」、シューマン「献呈」)は明らかに前者で、「どうじゃ感満載!」でありました。

風呂本さんはMCもお上手で、特に「のど飴の袋は演奏が始まる前に開けてください」の「もぐもぐタイム」はウケました。最近コンサート開始前にアナウンスされ、ツイッターTLでもたびたび話題にされている「のど飴袋カサカサ問題」。「もぐもぐタイム」が広まればいいですね(笑)

◇アンコール
観客の分散退場のため、「演奏を聴きながら徐々にお帰りください」とのことで、再度「月の光」の演奏。慌てて帰る必要もないし、聴かないのは勿体ないので最後まで聴かせていただきました。皆さん意外にさっさと退出されたので、最後の客になってしまいーー拍手をしたらこちらを向いてにっこりと会釈してくださってーー以前であれば終演後にお話しできる機会があったのになぁ、と、改めて今の状況を残念に思いました。

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