2021年4月18日(日)福井敬スペシャルリサイタル「ラ・ボエーム」

14時開演 ザ・フェニックスホール

「ローエングリン」→四大テノール→三大テノールと続いた「福井敬チクルス」(笑)
掉尾を飾ったのは「ラ・ボエーム」ハイライトを含むこのリサイタルでした。

とにかく第2部の「ラ・ボエーム」が圧巻。
マルチェッロが特別ゲストの黒田博さんで、日本で最高のキャストでのハイライトと言っていい演唱のラ・ボエームでした。
コロナ禍ではありますが、手を握ったり抱擁したりという演出もされており、物語に引き込まれてラストのミミ絶命のシーンでは落涙。何度も観ているラ・ボエームですが、泣いてしまったのは初めてでした(「あれ?死んでるよ」的なラストで泣けない(泣かないで済む?)演出が多いのです)。
なんといっても声自体の魅力と歌唱による表現力。福井さん、黒田さんはもちろんのこと、ミミの上田純子さん、イタリアで研鑽を積んでおられるそうですが、役に入り込んでおられて、こちらものめり込んでしまいました。そしてピアノ演奏がまた素晴らしい。ピアノだけでこれだけ豊かに状況を描ききれることに感嘆。ピアニスト谷池重紬子さん、第1部での19世紀的なドレス姿とは対照的にこの第2部での颯爽としたパンツ・スーツも素敵でした。

そして第1部でとりわけ心に残ったのは、「死んだ男の残したものは」。
谷川俊太郎の歌詞によるこの「反戦歌」、実は少々苦手でした。もともと「メッセージ・ソング」が苦手ーー主義主張、思想を声高に歌うという行為自体に恥ずかしさを感じるーーなのと、6番まである長さがくどく、この曲を初めてTVの音楽番組で聴いた時は「3番くらいでやめて欲しい」と思ったものです。そしてその後、あるリサイタルで聴いた際はまさに3番で終わったので、「聴衆を心得ている」と感心したものですが・・今回、福井さんの歌唱で聴くと、これは6番まで歌い切って初めて作品として成立するのだ、と納得しました。
前述ラ・ボエームと同じく、その声を聴いていたいと感じること、そして表現力によってーー例えば「兵士」を歌う時は手指でピストルを表す視覚的な説明に加え、軍歌のようなアレンジのピアノ伴奏により情景が目に浮かぶ、などーーこの作品の世界に素直に入っていくことができたのです。作品を生かすも殺すも演奏家の腕次第、技術と表現力であると改めて認識しました。

このリサイタルは、当初昨年6月27日に予定されていたものが延期されてこの日開催されたのですが、このあたりから大阪でのコロナ感染者が1000人を超すようになり、1週間後(つまり今日です)には緊急事態宣言発令。1週間遅ければ再延期となったギリギリのタイミングでありました。

◇座席
ほぼ中央の2列目。だけど、1列目が空席で、つまり「真ん前のど真ん中」。
「ローエングリン」終演後に偶然お会いできてお話しさせていただいたり、翌日の朝食レストランでもテーブルが隣でまたご挨拶したり、と顔を覚えられている感が強く、歌いながらこちらを見られることはないとわかってはいるものの、目のやり場に困ってしまいました(笑)
このホールは天井が高いせいか小ホールながら響きすぎることがなく、適度な音圧で、とはいうものの全身に浴びるような感じで(笑)、響きを堪能できました。

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