2024年3月30日(土)秋山和慶指揮/日本センチュリー交響楽団豊中名曲シリーズVol.29 ピアノ亀井聖矢

15時開演 豊中市立文化芸術センター 大ホール

亀井聖矢さんの演奏するプロコフィエフ3番。素晴らしい公演でした。

昨年のリサイタルでは上手席だったため全く見えなかった手元は今回ばっちりと見え、まず鍵盤の上に置かれた手の大きさに驚きました。手が大きいことは、出演されたTV番組でも紹介されていましたが、生で見て改めて実感。高身長ではあるけれど、その背丈に比してもバランスを欠いているのではないかと思うほどに大きい。

その大きな手で奏でられる迫力のプロコフィエフ3番。冒頭振動が床から伝わってきて、足元からゾクゾクとしてしまいました。

この3番は超絶技巧の披露といった感の作品でもありますが、秋山マエストロ指揮によるオケの演奏とピアノがぴたりと嵌まり、2階席でもほぼ直接音で聴こえてくるこのホールの特性(残響の短さ)もプラスに作用して、音楽の構成がよく分かる頗る見通しのよい演奏でした。ピアノの音は低音から高音まで強く明瞭。日本人でこれほどの音量、迫力で演奏できるピアニストが現れたのですね。超絶技巧とそれを余裕で鳴らす頼もしい手元。聴いて、見て、感じる、痛快かつ至福の鑑賞体験でした。

1楽章が終わったところで、もうすっかり嬉しくなってしまって——誰かうっかり拍手をしてくれたら追随したいと思うくらいに——あいにくそれは叶いませんでしたが、終演後は大喝采。「ブラボー!ブラボー!」と何度も叫ぶオジサマがいて、客席から笑いが起こり、亀井さんも笑っていました。

さて一旦ピアノコンチェルトから離れ、1曲目に演奏された、ホルスト「日本組曲」。
実演されるのは珍しい作品ですが、これは次に演奏されるプロコフィエフのピアノコンチェルト3楽章に現れる主題が「越後獅子」に似ている、とされていることから来るプログラミングだったと思われますが、選曲の妙です。

ホルストが、その当時ロンドンに滞在していた舞踊家の伊藤道郎から聞き取ったメロディを基に作曲したそうですが、「ねんねんころり」そのものが引用されているなど、直截すぎて日本人の作曲家では創作しえない(することを避ける)音楽だと思いました。

しかし、オーケストレーションは素晴らしく、とても聴きやすい音楽で、こういった形で日本の音楽を美しく残してくれたホルストに感謝です。

休憩を挟んで、後半はチャイコフスキー交響曲4番。
前半のナイスな組み合わせからすると、もうひとひねり欲しい感じのする選曲ですが、プログラム解説によると、「それまでのスタイルを手放し新しい音楽を展開していく始まりとなった一曲」で、この演奏会のテーマ「待ち望んだ突然変異」に沿ったものであるとのこと。

昨年6月に読響大阪定期で聴いた際には、金管の咆哮が強すぎて、「痛い」と感じてしまったのですが、秋山マエストロとセンチュリーで聴くと、内省的で柔らかい印象で、素直に「美しい」と思えました。

さてところで、再び亀井聖矢さんに戻りますが——昨年オール・ショパンのリサイタルを聴いて、ショパン向きではないなと感じたのですが——今回の演奏を聴き、「無理にショパンを弾かずともこの路線でいいじゃないか!」と思いました。今の彼に合っているし、聴衆が彼に期待するのもこの演奏ではないかと。

しかしピアノ界には「ショパン・コンクール」というものがあって、それが最高峰のコンクールであり、そしてやっぱりそれは不幸なことなのではなかろうかと(以前にも書きましたが)、またしてもグルグル考えてしまったのでした。

◇ソリスト・アンコール
リスト:ラ・カンパネラ

◇座席
2階最前列中央。
芸文センターの3階席最前列と同じく、手すりの横棒が目線に被る残念な席。
次回は2列目以降で。

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