2023年4月27日(木)METライブビューイング「ローエングリン」

10時05分開演 kino cinema 神戸国際

今シーズン初のMETライブビューイング鑑賞。
既に第5作目、新演出の「ローエングリン」。

ワーグナーを聴きに行くと一日仕事になってしまうので行かないつもりでしたが、開始時刻が10時過ぎでその後の時間が有効に使えること、業務も繁忙でなかったこともあり、年休を取って行ってきました。

新演出のプロダクション。
舞台は地中(地下)のようで、上部に丸く空いた孔から月が見えているシーンで始まりました。月の動きや満ち欠けで時間の経過を表しており、1幕開始直前にその月が真っ赤に燃えて爆発したので、これは隕石衝突や核戦争などにより滅びかけた未来の地球かと思いましたが、それにしては衣裳がクラシカルであるし、何故彼らは地中にいるのか?結局よくわかりませんでした。

キャストの後ろに130名の合唱がズラリと並ぶ様は壮観。合唱の衣裳が舞台装置の一部にもなっていました。

今回のキャスト、なんといっても題名役のピョートル・ベチャワの歌唱が素晴らしい!艶のある力強く伸びやかなテノール!そうそう、こういうテノールが聴きたいのですよ!と嬉しくなりました。しかも3幕ハイライトに山を持って来れるスタミナもすごい!これぞヘルデンテノール!

ベチャワとともに素晴らしかったのがオルトルートのクリスティーン・ガーキー。以前同じくMETの「ワルキューレ」ではブリュンヒルデでしたが、今回の悪役もハマっていました。怪演。歌唱はもちろん、演技を含めた表現力。演出も彼女をかなりフィーチャーしたもので、場を攫っていました。

エルザのタマラ・ウィルソンは凛とした美しいソプラノで歌唱は素晴らしかったのですが——なんともマツコ・デラックスなルックスで——体形の方がいちいち気になってしまい歌に集中できず。テルラムントとハインリヒ国王の低音二人はパワーに欠ける印象。

そして今回はオーケストラも素晴らしかった。MET音楽監督のヤニック・ネゼ=セガンの指揮による演奏は非常にキレがあり推進力抜群、オーケストラが鳴りまくるワーグナー。ワーグナーの複雑かつ豊かな音楽が燦然と輝くサウンドで響きわたっていました。鳴らし過ぎでは?と思っても、それを超えて響いてくるベチャワの声量もすごい!(低音二人はこういうところで埋もれがちでした)
昨年鑑賞した「ドン・カルロス」も、ネゼ=セガンの指揮であればもっと異なる印象を持ったかもしれません。

幕間のマエストロへのインタビューコーナーはピアノを弾きながらの楽曲解説(かなり好きなジャンルです笑)。調性の話が主で——ハインリヒ国王はハ長調で中立を表し、エルザは変イ長調でローエングリンはイ長調、ぶつかる調性で二人は合わないことを示している。これは後のライトモティーフよりも含みがある——興味深い話でした。このコーナーは今後も続けて欲しいです。

演出に話を戻しますが、前述の丸い孔から月が見えている様子、そして3幕ではその部分が獣の目になっているのを見て、以前のMETビューイングの「オランダ人」を思い出したのですが、やはり同じ演出家でフランソワ・ジラール。これは彼の好みなのか、シリーズ化した演出なのか?これより前のパルジファルがどのようであったのかも知りたいところです。

それにしても、白いシャツに黒ズボンのローエングリンは現代人に見えるけれど(衣装のイップ氏によると「会社員(officer)」とのこと)、彼は未来からやってきたのか、過去からなのか、はたまた別の惑星からやってきたのか? 結局よく分からないまま終わってしまいました。伏線が回収されないパターン(笑)

合唱団の衣裳は腕を広げると色が瞬間的に変わる仕掛けが施されており、マスゲームのごとく舞台上の色が一瞬で変わるので最初はハッとする感動があったのですが、3幕終盤ではそれが何度も何度も繰り返されるので終いにはややうんざり。こういうアイデア一発モノの賞味期限は短い。照明で美しく映えるようにシルクでつくったとのことでしたが——ローエングリンはユニクロで揃えられそうな格好なのに——題名役の衣裳がもっとも安上がり?

タイトルとURLをコピーしました