2024年3月1日(金)エリアフ・インバル指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団第576回定期演奏会

19時開演 フェスティバルホール

デリック・クック補筆版によるマーラー交響曲第10番の演奏会。

滅多に演奏されることのないマーラー10番の補筆版。大フィルでも今回が初めての演奏だったそうです。

通常、演奏会では単一楽章の作品として採り上げられ、またマーラー全集CDに収録されているのは1楽章のみであったりするので、1楽章で絶筆かと思っていたのですが、5楽章までパルティチェルという略式総譜が残されていると今回初めて知りました。そのため多くの音楽関係者が補筆版を作成し「世に問うて」いるそうですが、現在最も多く演奏されているのがこの日演奏されたイギリスの音楽学者デリック・クック氏によるもの。

このクック補筆版初演は1960年。アルマ・マーラーがその録音を聴いて納得し、所有するマーラーの自筆譜をクック氏に提供。それにより更に欠落部分が補筆され、第2稿として1964年に演奏された際の指揮者がエリアフ・インバル氏だったそうです。1936年生まれのインバル氏はアルマ・マーラー(1879-1964年)とも年代が重なっているのですね。この第2稿にはインバル氏の意見も取り入れられているとのことで、今回はこの版の成立に関わった指揮者による、大変貴重で意義のある演奏会だったわけです。

現在88歳のマエストロ、背筋は伸び、舞台の出入りも颯爽とされていて、指揮動作も大きく、75分ほどの演奏中もずっと立ったまま。終演後のカーテンコールの出入りも頻繁にされており、その頑健さは驚異的でした。

さて、この日の演奏ですが——
残念ながら名演とは言い難いものでした。
3年前にインバル氏が振ったショスタコーヴィチ交響曲第10番が非常に素晴らしかったので、同様の大フィルの化学変化的なものを期待していたのですが、やや期待が大きすぎたようです。

冒頭のヴィオラ・パートソロからまとまりを欠いた印象で、途中譜面台からの落下物や楽譜のめくり遅れによる舞台上からの雑音が入ってきたりもして——そうなると聴き手としてはアラ探しの旅に出てしまうわけです(これ以上は書きませんが)。

トランペットやホルンのソロ、それに5楽章のバスドラム(エスニック調の織地が掛けてありました)の演奏は素晴らしく記憶に残るものでしたが、全体的に散漫な印象。終盤5楽章になってやっとヴァイオリンから一体感のある艶やかで強靭な音色が聴こえてきて——最初からこうであれば良かったのに!と歎息の思いでした。大フィルといえど、これまでやったことのない作品の初演というのは難しいものなのかと感じた次第です。

以前びわ湖ホールで聴いた、沼尻マエストロ/京響による1楽章のみの演奏は、黄泉の世界を感じさせる優れたものだったことも思い出して、やはり1楽章だけに集中した演奏の方がよいのかもしれない、と思ってしまった演奏会でした。ちょっと残念。

 

◇座席
2階6列目の中央付近

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